ことばの発達~言語習得にタイムリミットはあるの? 「 臨界期 」にアプローチ

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臨界期

2018年より、英語教育のスタートが小学校3年生に。5年生からは評価がつく正式教科になります。これまで以上に聞くことや話すことを重視し、いずれは討論ができる英語力を目指すカリキュラムになるようです。

今や英語の早期教育は当たり前。インターナショナルスクールも注目を浴びています。英語の早期教育ブームを後押ししてきたのが「言語習得には臨界期というタイムリミットがある」という説。それとは真逆に「臨界期に複数の言語で育てると、母語が混乱して発達が遅れる」と、早期教育に否定的な意見も。

英語の早期教育はどう考えたらいいのでしょう。「臨界期」を切り口にたどってみました。

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 言語習得に「 臨界期 」はあるの?

・「臨界期仮説」とは

英語の早期教育の必要性とともに語られてきたのが「臨界期仮説」。

「臨界期」は、脳の発達過程において、環境や経験で刺激を受けて神経回路が急速に増えたり、組み換えが起こったりと活発に変化する時期のこと。適切な刺激を受けずにこの期間を過ぎてしまうと、機能の習得が困難になることがあります。感受性期という呼び方もあります。

たとえば、視覚の臨界期には光による刺激、見る経験が必要ですが、生後直後から一定期間、ネコの片目を遮断してしまうと、遮断した側の目の神経細胞が応答しなくなり、見えなくなるそうです。

言語の習得にも臨界期があって、その時期を過ぎると習得が困難になるという考え方が「臨界期仮説」。言語の臨界期がいつまでなのか、いろいろな説がありますが、一般的には出生から思春期に入る前(12才~13才)。発音に限ってはもっと早く、5~6才ごろまでという説もあります。

この仮説は、本来、母語(赤ちゃんが周囲の環境から自然に習得する言語)の習得に関してたてられたものでした。その根拠となっているのは、森で動物と一緒に生きてきたとか、監禁されて育った、聴覚障害が見過ごされてことばを知る機会がなかったなど、非常にまれなケース。実験するわけにもいかず、はっきりと証明されていないので「仮説」となっています。

人の声から、ことばをかたまりとして聞き取ること、ことばが意味を持つと理解すること、ことばの概念をつかむことと。大きくなってから、はじめてことばを習得するハードルはかなり高いものだったでしょう。実際に、特殊な事情で遅くなってから言語を習い始めた人たちは、単語を数語並べる程度の言語発達で留まっていたようです。

「臨界期仮説」の理論や期間の設定が正しいかはさておき、思春期以降に言語を習得する困難さは、実例が示していると思います。

・母語以外の言語の「 臨界期 」

英語 早期教育

By: JoyCC BY 2.0

問題は外国語の習得です。母語以外の言語にはじめて触れる時期が、すでに臨界期を過ぎていたら、言語の習得が難しくなるのでしょうか?

その根拠として挙げられている例は、移民コミュニティでの語学力調査です。16才までに移住した人の英語力がみな高かったのに対して、16才以降に移住した人には、年月が経っていてもかなり個人差があったのです。家族で海外に移住した人からも、聞き取りや発音ができるようになるスピードは子どもにかなわないという話はよく聞きます。大人になると、赤ちゃんが自然にことばを覚えるような方法で、ネイティブと同じレベルにまでなるのはかなり難しいのかもしれません。

しかし、すべて0からスタートした母語のときとは違って、第2言語は母語で身につけた知識や思考力をもとに、系統的に学ぶこときができます。æの音がよく聞きとれなくても「ア」と「エ」の中間とか、口の開け方を見るなどのヒントはつかめます。テキサス大学オースチン校の研究によると、周囲が外国語の環境で、モチベーションをもって専門的な訓練をうければ、10%以上がネイティブと同じように話せるようになるそうです。

実際に大人になってから英語力を身に着けた実例はたくさんあります。自然な習得は難しいにしても、意欲さえあれば十分可能だと思います。

複数の言語環境で母語が混乱する?

・発語が遅れがちな幼少期

臨界期に複数の言語環境で育てると、母語が混乱して言語の発達が遅れるという説もよく聞きます。以前は、アメリカでも母語が混乱するからという理由で、ナニーも英語で話すことが求められていました。しかし、最近になって、バイリンガルに育てることを目指して、あえてスペイン語など外国語を話すナニーを求める人が増えているそうです。

幼少期、両親の母語が異なっているとか、外国人のナニーがいる家庭で育つ場合、ことばの出始めがかなり遅くなる傾向があります。3才くらいまで、ほとんどことばが出ないケースもめずらしくありません。成長過程では、語彙が少ない、ことばの使い方を間違える、1文に両方の言語がまざってしまうなどの問題もみられます。同じ環境のきょうだいでも、ことばの発達には違いがあります。

ひとつの言語しか話さない場合でも、ことばの発達の遅れにはいろいろな原因が考えられます。バイリンガルの場合はさらに問題が複雑に。ことばの発達で心配なことがでてきても、まだバイリンガルの研究が進んでいないので、対応できる専門家が少ないのが現状です。親は、どんな問題が起きてくるのかを知って対策をたてること、子どもの状況を見ながら意識的に言語力を伸ばす努力をすることが求められるようです。

母語の混乱を防ぐために、1文の中で違う言語を混ぜない、話者によって言語を使い分ける、場所別に言語を使い分ける、それぞれの言語を使う時間が同じくらいになるようにするなど、ルールを決めている家庭もあります。子どもが成長して、それぞれの言語の区別ができるようになると、問題は自然に解消されていくという楽観的な意見もあります。その一方で、かなり遅れが目立ったので、一定期間どちらかの言語だけを集中して使うように切り替えて、ことばの遅れを取り戻したという例も。里帰りなどでどちらかの言語力が集中して伸びると、もう1つの言語力が上がることも多いようです。幼児期は、複数の母語を獲得しやすいかわりに、成長して環境が変わると忘れてしまうのも早いと言われています。

・学習言語能力が問われる学齢期

学齢期に入って、母語とは違う学習言語で教育を受ける場合、どんな問題がおるのでしょうか。

どちらの言語も一定のレベルに到達できなかった場合、年齢相当の抽象的思考ができないために学力に影響が出る場合もあります。こういう状態は、セミリンガルとかダブルリミテッドと呼ばれています。

外国から日本に働きに来た家庭の児童を対象に、白鴎大学の高橋節子教授が行った日本語の学習状況調査の論文がありました。外国で現地校に通学する場合の参考になると思いますので、まとめてみますね。この論文によると、出国・入国したときの子どもの年齢に、とても大きな意味がありました。

「年少者に対する日本語教育の諸問題」

・小学校1~2年生まで

現地の学習言語への適応が早く、日常会話ではほとんど不自由を感じていない(現地の学習言語が第一言語になっている)。そのかわり、母語だった母国語は忘れかけていて、読み書きが苦手に。両親があまり現地のことばを話せない場合、家庭内では複雑なコミュニケーションができなくなる可能性がある。帰国する際は、母国語の再習得で苦労することになりかねない。

 ・小学校高学年(11才)以降

現地のことばを年齢相当のレベルまで習得することにも、文化や生活の適応にも、年少者よりずっと時間がかかる。しかし、読み書き話すという母語の基礎がしっかりできていれば、その助けを受けて第2言語も伸びやすい。たとえば母語で「民主主義」という概念を持てるようになっていれば、第2言語はことばのラベルを張り替えるだけで済むので理解が早い。どちらの言語も高いレベルで使いこなすバランスバイリンガルになれる可能性がある。

・小学校3、4年生のころ

コミュニケーションができる伝達言語能力は1、2年でも習得可能だが、思考及び認知的発達を促す学習言語能力を習得するには5~7年かかる。学習で抽象的な概念把握が要求されるまでにあと1、2年しかないが、母語がそのレぺルに達していないうえに、第2言語もそこまで達成する時間的余裕がない。どちらの言語も低レベルにとどまるおそれがある。

決め手は学習言語能力。10才くらいまでに、本来の母語か、現地で獲得した学習言語か、どちらかで抽象的な思考ができる言語能力をつけることが目標になるようです。

小学校3、4年生といえば、思春期の入り口で仲間を大事にするギャングエイジとも呼ばれる時期。しだいに抽象的なことを考え始めるころでもあります。学習面では、思考力が求められる内容が増えて、つまづきやすい教科がでてくるので、「9才の壁」「10才の壁」と呼ばれています。この時期に学習言語が変わってしまうことは、子どもにかなり大きな負担を強いることになりそうですね。

家庭にあった英語教育を

「臨界期」を逃すと言語が習得できない。「臨界期」に複数の言語環境で育てると、母語が混乱して高いレベルの言語能力が得られない。どちらも少し本当ですが、どちらも少し誇張しすぎ。私はそう感じました。赤ちゃんから始めても、小学校3年生まで待っても、どっちも正解。

英語はコミュニケーションツール。誰と、いつ、どこで、どんなふうに使うのか。家族とのコミュニケーションに必要、海外生活の可能性が高いなど、はっきりした理由がある家庭なら、すぐにでも計画的に始めるしかないと思います。バイリンガルに育てていくなら、どんな問題がおきるのか、どうやって回避したらいいのかも把握しておく必要があります。日本語の言語能力を年齢相当に保っておくため、継続的に勉強させることも大切ですね。

将来の英語力につながるかどうかは別にして、英語を聞く体験とか、話してみる体験はひとつの刺激としてあってもいいもの。英語体験を子どもと一緒に楽しめるのなら、気軽に一緒に始めることをお勧めしたいです。でも、親自身が英語に興味がなく、子どもにもその気がないのなら、ほかにいろいろ学べることがある時期に、時間とお金をかけて無理にやらせる必要はまったくない気がします。

子どもたちやその友だちを振り返ってみると、幼稚園くらいのときは好きだったことが、あとで苦手になったり、その逆だったり。うちでは、いちばん身につけたかった読書習慣は全然身につかず、英語教育もしなかったのにスペイン語にはまるなど、予想外の結果になったことが結構あります。ただ、どこの家庭でも、親が本気で楽しんでいること、感動していることは、子どもも興味をひかれるようでした。好き、とか、上手になりたいとか、モチベーションがあれば、子どもだって頑張れるもの。英語を学ばせたかったら、親が英語を楽しんでいる姿を見せることがいちばんの近道かもしれませんね。

参考

臨界期仮説 ウィキペディア

脳発達と感受性期のお話

資料3-2 言語獲得/学習の臨界期に関する補足メモ 文部科学省「英語教育の在り方に関する有識者会議(第2回)」

海外での子どもの教育

Looking for Baby Sitters: Foreign Language a Must 

バイリンガルとセミリンガル AMDA国際医療センター 

学校教育相談室

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コメント

  1. 井上和雄 より:

    臨界期に関する最新の研究をご紹介します。

    http://www.ted.com/talks/patricia_kuhl_the_linguistic_genius_of_babies?language=ja

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