乳幼児突然死症候群 ( SIDS )は、元気だった赤ちゃんが、ある日突然亡くなってしまう怖い病気。「赤ちゃんをうつぶせに寝かせてはいけない」理由として、病名を知っている人は多いのではないでしょうか。
2016年11月、オーストラリアの病院で SIDS の原因が発見されたというニュースが報道されました。乳幼児突然死症候群 と関わりがあるとわかったのは、神経伝達物質の「 オレキシン 」。乳幼児突然死症候群とはどんな病気か、「オレキシン」とは何かについてまとめます。
乳幼児突然死症候群 (SIDS)ってどんな病気?
乳幼児突然死症候群 は、これまで病気の兆候もなかった健康な赤ちゃんが、事故や育児の不手際が起きたわけでもないのに、ある日突然亡くなってしまう病気。英語では「Sudden infant death syndrome」で、頭文字をとってSIDS(シッズ)と呼ばれています。
平成27年度には、96名の赤ちゃんがSIDSで亡くなっています。これは乳児期の死亡原因として第3位になります。ちなみに1位は「先天奇形,変形及び染色体異常」、2位は「周産期に特異的な呼吸障害等」、4位は「不慮の事故」です。
この病気が日本で知られるようになったのは、1989年のこと。故九重親方(元千代の富士)が、三女の愛さんを亡くされたことがきっかけでした。当初は事故死のように報道されたここともありましたが、その後、SIDSと判明。人気横綱を襲った悲しい出来事としてニュースになりました。
当時、日本ではアメリカ発のうつぶせ寝がブーム。新生児がよく眠れる、頭やおしりの形がかっこよくなると人気でした。病院で、未熟児や病気の赤ちゃんの養育にもうつぶせ寝が効果かがあったことから、小児科医にもうつぷせ寝が支持されていました。
欧米では日本よりもSIDSの症例が多く、オランダでは早くからうつぶせ寝とSIDSの関係が指摘されていました。1992年には米国小児科学会も「乳児を仰向けに寝かせるとSIDSの発生を減らせる」と発表。この発表から少し時間がかかりましたが、日本でもうつぶせ寝をやめるようになりました。
この病気の原因はこれまで判明していませんでしたが、赤ちゃんの呼吸中枢の未熟さと覚醒反応の遅れによって起きるのではと推察されています。
赤ちゃんの呼吸のリズムは、大人のようには整っていないため、睡眠中に無呼吸状態になることがあります。通常は、呼吸が止まるとはっとしてまた呼吸を始めるのですが、覚醒反応が遅れてしまうと、赤ちゃんは低酸素血症に。それがさらに呼吸中枢を抑制し、無呼吸状態が長く続くという悪循環に陥ります。SIDSがうつぶせ寝のときに起きやすいのも、あおむけ寝より覚醒反応が遅くなるためと考えられています。
覚醒物質「オレキシン」の欠損が発症の原因
今回、関係性があることがわかったのは覚醒物質「オレキシン」。脳が起きている状態を保ち続けるように働きかける神経伝達物質で、食欲を亢進させる働きもあります。「オレキシン」は、欠乏すると過眠になる病気、ナルコレプシーを発病する物質として知られています。
※睡眠と「オレキシン」の関係については、こちら
「 夜泣き 」にアプローチ【睡眠の仕組み編】~日本の赤ちゃんだけ夜泣きするのはなぜ?
2016年11月17日のNewsweak日本版によると、オーストラリアのロイヤル・アレクサンドラ小児病院の研究グループは、SIDSで死亡した赤ちゃんに、オレキシンの欠乏が認められたことを発表。「今後、新生児のオレキシンの数値を調べる検査を行うようにすれば、異常値に該当した子供たちがSIDSや睡眠時無呼吸症候群に陥る危険性を予見できるようになる」とコメントしています。
睡眠中、赤ちゃんが無呼吸状態になったり、無呼吸状態になっても覚醒反応が起きないのは、覚醒物質のオレキシンがないため。これがすべての原因だとすると、将来的には、リスクの高い赤ちゃんを早期に発見し、オレキシンを補うことで、発症を抑えることができるようになるかもしれませんね。
SIDS のリスクを減らすには
直接の原因がオレキシンの欠乏にあることが証明されたとしても、当面は今までどおり、リスクを減らすように気をつけていくしかありません。これまでの研究によって、つぎつぎにリスク因子がわかってきました。米国小児学会では、リスクを減らす育て方として、つぎのように推奨されています。
1)1才まではうつぶせ寝を避けて仰向けに寝かせる。
2)赤ちゃんの寝具は固めのマットレスを使用する。窒息事故を避けるためにも、周囲にやわらかなもの、口をふさぐ衣類などを置かない。
3)赤ちゃんは親と同室が望ましいが、窒息事故を避けるためにも親と同じベッドでは寝かせない。
4)妊娠期間中に定期健診を受ける。
5)母親が妊娠中や産後に喫煙(受動喫煙を含む)をしない。
6)妊娠中および出産後のアルコールや違法ドラッグ摂取を避ける。
7)赤ちゃんを衣類の着せ過ぎや布団のかけ過ぎで温め過ぎないようにする。
8)昼寝中や就寝中におしゃぶりをくわえさせる。(予防効果がある)
添い寝はリスクを高めるとされていますが、日本式に布団を並べて眠る添い寝なら心配はないのではという意見があります。添い寝でリスクが高いというデータがあるのは、生後4か月以下の赤ちゃん。生後5か月以降になると、添い寝してもよさそうです。
仰向け寝をさせていると、頭の一部が平らになってしまうことがあります。うつぶせ寝をしなくなったアメリカでも、頭が変形が増えてきて、うつぶせで遊ばせることが推奨されています。起きている間はうつぶせでも心配いりません。大人が見守っている環境でうつぶせをさせてあげるといいですね。